お盆休みが終わった月曜日。
事務所の空気はまだ少しゆるんでいる。前園さんは完全に昼夜逆転の顔つき。
コピー機の音までどこか眠そうに聞こえる朝だった。

そんな中——
ひとりだけ、妙にキビキビしている人がいた。

秋本さんである。

67歳とは思えない若さで、声もテンションも朝からフルスロットル。

「ムカついたから〜」を軽く言える昭和の豪快さを持ちながら、
家族の話になると急に声がトロけるほどの溺愛ぶりを見せる、あの秋本さんである。

事務所の椅子に座るだけで周囲の空気が明るくなるタイプで、まるで“人間スタンドライト”みたいに周囲を照らす。

お盆明けの事務所に必要だったのは、コーヒーでもエアコンでもなく、たぶん秋本さんのこのテンションだった。

◆ 第1章・続:スマホとの距離感

ただし——
秋本さんにはひとつだけ弱点がある。

スマホである。

会社では固定電話とスマホを使いこなしているように見えるが、
実は操作できるのは「かける・話す・切る」この三種の神器だけ。

それ以外のボタンは、押した瞬間に“知らない世界の扉”が開く。

画面が見たことない景色になると、豪快な秋本さんが一瞬でフリーズする。

「え? これ、どこ押すの?」

その声が聞こえた瞬間、周囲の社員はそっと視線をそらす。
誰も“その扉の向こう側”を見たくないからだ。

でもね。
家族とのLINEになると話は別。

老眼で手を伸ばしながら、画面に吸い寄せられるように操作する姿は、
ちょっとコケティッシュで、
“恋する乙女のスマホタップ”みたいな雰囲気すらある。

このギャップが、秋本さんの魅力だ。