夕方の事務所は、 一日の疲れとプリンターの熱気が混ざった、
早く帰りたい前園さんに仕入先とのやり取りをする日下部さん。
独特の空気になる。
その中で行われるのが、最終営業報告。 今日も角田さんが、淡々と数字と案件を厳しく追及。
「この件は、いつお客様に再提案しますか?」
その瞬間だった。 小林さんが、まるで“若者語の精霊”に憑依されたみたいな声で言い放った。

「その件、いまいまじゃないです」
角田さんの手が止まる。 空気も止まる。 時の流れすら一瞬バグった。
……いまいま? 今の今じゃない? 今じゃないのに今と言う?
語感だけ若者っぽいけど、
意味はどこにも着地しない。
気になって、私は聞いた。
「小林さん、それどういう意味?」 「どこで使うの?」
小林さんは、 まるで自分の口から出た言葉を初めて聞いた人みたいな顔で、 ゆっくりこちらを見た。
「はて?」
そのまま静かに席を離れ、 コピー機の陰へフェードアウト。
まるで自分の発言から逃げるように、 “いまいまじゃない世界”へ帰っていった。
角田さんは、 片目の視界で状況を理解しようとしていたが、 結局こうつぶやいた。

「……今じゃないってことですかね?」
いや、誰も分からない。 小林さん本人すら分かっていない。はずだ...
◆ 高校生ならこう言う
最近の高校生は、 「ギュン」「滅」「めろい」「クカ」など、
感情の強度がインフレした言葉を使いこなす。
たとえば——
A「その服めろい」 B「今日の授業クカ」 C「推しが尊すぎて滅」
語感は軽いのに、感情は重い。 もはや心臓が何個あっても足りない世界だ。
そんな10代の言語に憧れたのか、 小林さんは “若者語っぽい音” を組み合わせてみたのだろう。
結果—— 「いまいまじゃないです」 という新種の言語が誕生した。
◆ まとめ
若者語は日々進化する。 しかし、小林さんの言葉は進化ではなく突然変異だった。
それでも、 その場にいた全員がちょっと笑った。
若者語は分からなくても、 職場の空気を少しだけ軽くする力はある。
そして今日もまた、 どこかで小林さんが新しい言葉を生み出している……かもしれない。
【管理人追加】
後から調べてみると、ビジネス用語で
「即座に・今すぐ」という意味で「いまいま」と使う文化もあるらしい。
小林さんは若者語ではなく、デキるビジネスマンの用語を使おうとして周囲をフリーズさせてしまったのかもしれない……(真相は謎のまま)。

